【千文字】ドント・ルック・アップ - とても笑えるんだが、俺たち笑ってる場合じゃないんでねえの?

f:id:issee1:20211230124723j:plain



アダム・マッケイという作り手が大好きだ。彼の作品は知的で、悪辣で、義憤に燃えていながらもバカバカしい。年の瀬にそんなマッケイの新作がNetflixで配信された。

 

リーマン・ショックの内幕を描いた『マネーショート』、元アメリカ副大統領ディック・チェイニーを主役に据えた『バイス』と、2作続けて「笑えない実話」の映画化に挑んだマッケイだったが、今度は「半年後に巨大な彗星が地球に衝突するとわかったら、アメリカはどうなる?」という完全フィクション映画だ。

それによって事実関係に基づくという制約がないだけ自由度が増し、コメディの比重が更に増幅している。一方で前2作にあった「説教臭さ」要素は減退してもいるので、より万人が楽しめる作品になっているはずだ。

 

しかし、アダム・マッケイが義憤に駆られた怒れる映画作家であることに変わりはない。彼のやり方は、現代社会を鋭く分析しそこに潜む真実をコメディにする。その結果「笑えるんだけど、これって笑ってる場合なのか?」という、笑いと一緒に生じるある種の危機感、居心地の悪さ。

アダム・マッケイの映画は、鏡の中に映る自分の顔を見て笑っているような気分になる。彼のコメディは王様に仕える道化師に近い効果があるのかもしれない。映画の中の人々の愚かさを笑うことで、自分たちの滑稽さにも気付かされる。外面は甘いが、奥には苦い薬が隠されているのだ。

 

「巨大隕石が地球に衝突!」ってのは『アルマゲドン』や『ディープ・ブルー』みたいなハリウッドらしい世界規模の危機だ。ただ、その世界的危機を徹底的に茶化す姿勢で近いのは『マーズ・アタック!』あたりかもしれない。ただし、『ドント・ルック・アップ』は現実社会をシュミレートした果てにたどり着いた帰結なので、そこらのバカ映画より格段とタチが悪い。

「現実的に考えみた結果、アメリカは利権やら何やらに足を取られてアルマゲドン級の愚策しか取ることができないだでしょう」とハッキリ言い放つこの映画を見ていると、笑いながらも暗澹たる気分になってくる。少し前なら「そんなに酷くはないっしょ」と笑っていられたのかもだが、コロナ禍を経験して「アベノマスク」なんて愚策オブ愚策を目の当たりにした我々は笑ってる場合ではない。そもそも笑う権利すらあるんだろうか?

 

この薬はゼリーに包んだりして飲みやすくなってはいるけど、味はとっても苦い。

だけど、飲んどいて損はない薬です。 ←Just 1000