24'07"21 山岳映画、縦構図

1920~30年代頃のドイツ映画には「山岳映画」という人気ジャンルがあった。
その名の通り、主に山登りが作品の中心に置かれた映画群で、当時のことなのでもちろんCGなし、身体一つで崖や急斜面をよじ登っていくスリリングさを味わえる。

 

その中でも代表作とされるのが1926年に制作された『聖山』だ。

監督は山岳映画界の巨匠であるアーノルド・ファンク。

 

主演はなんとレニ・リーフェンシュタール

 

ダンサーだったリーフェンシュタールは、アーノルド・ファンクに見出され、この映画で女優デビュー。この10年後にはベルリン・オリンピックの記録映画『オリンピア』を監督して歴史に名を残すことを考えれば、超スピード出世である。

だが、この『聖山』を見ると、リーフェンシュタールはアーノルド・ファンクから映画を学んだというのがよくわかる。山岳映画も、山登りを通して身体とその運動の美しさを表現しようとするジャンルであり、その画面の切り取り方やスローモーションの用い方など『オリンピア』とはっきり通じるものがある。ついでにリーフェンシュタールのデビュー作である『青い光』も寓話的な山岳映画だ。

 

『聖山』の物語は、リーフェンシュタール演じるダンサーを取り巻くなんてことはない三角関係のメロドラマなのだが、映像に関しては驚きの連続。断崖絶壁を身体一つで登っていったり、中盤のスキーシーンはそのスピード感、充実したカット数、迫力と全てにおいて素晴らしい。これを見ると、フリッツ・ラングムルナウらに並んでファンクの名が刻まれても良さそうなものだが…(やはりナチスに迎合したが原因だろう)

 

そんな感じで見ていると、少し興味発見があった。

サイレント時代の映画作品では、画面のアスペクト比がショットによって変わっていくのはよく見る演出ではある。画面内の注目して欲しい部分をピンスポットにしてみたり、マスクを切って画面が正方形に近くなったり、4:3に戻ったりもする。そういう意味で、横にした長方形のスクリーンに囚われない現在の状況にも近い気もする。

 

その中で、もちろんスマホのような縦画面もあり、何度も用いられる。

この縦の画面が、なんとも素晴らしく効果的で驚いた。

山岳映画は登るか滑走するかという垂直方向の運動が中心になるので、縦画面で写した瞬間に最も効果を生む。横画面はそれはそれで迫力はあるが、縦画面の時のインパクトはその比にならない。

 

スマホ時代の今、映像業界はいまだに縦画面の扱い方に苦慮している。
その光明は、もしかしたら山岳映画にあるのかもしれない