ワイルドスピード JET BREAK【千文字レビュー】
「もうワイスピとトム・クルーズは、あと宇宙に行くくらいしかやること残ってないよなー」
そんな与太話が現実と化した、悪魔的な一本と言えるだろう。
ワイスピ シリーズはいつだってバカ・カーアクションの自己ベストを更新し続けてきた。すでに前作の時点で「行くとこまで行ったな」と思っていたのに、「ロケット巻き付け車」という限界突破の代物を見て「来るとこまで来てしまった…」とさらなる畏怖の念すら覚える。
とはいえ、そんな「無邪気なバカ」を更新し続けという売りが、作り手たちに諸刃の剣として迫ってきた印象もある。ワイスピ脳の持ち主である作り手たちも、流石に自分たちの限界に気づきだしている。もはやワイスピ的アイデアは背伸びしてやっと届く低脳領域にいる。この先はいかに脳細胞を殺してバカを思いつくか、その勝負になってくるだろう。
ただそうはいっても、シリーズファンならこの作品を有り難がらなずにはいられない。だって、シリーズ最大の立役者でありアジア系監督のトップランナーであられるジャスティン・リンの復帰と、最高のアジア系俳優サン・カンが最高のアジア系キャラ ハンとしてシリーズに復帰したのだから!これは寿ぐべきことである。「死んだ設定は?」なんて疑問は脳細胞ごと殺して、とりあえずお祝いをしよう!
ロック様とステイサムのカップルが成立し、二大アクションスター揃って離脱という痛手も被ったはずなのだが、見てみるとその点はそれほど気にならない。
シリーズファンとしてはハンの復帰が、その二人の離脱の穴を補って余りあるくらいだし、力のインフレ著しかったハゲマッチョ枠が、正常値近くでバランスがとれた気もする。前より少し見劣りはするが、アクション映画としてはスッキリとして見やすくなったはずだ。
あと代わりに参入したジョン・ハムの貢献も大きい。ヴィン・ディーゼルとの兄弟設定にも肉体的な説得力を感じるし、回想シーンを演じた若手俳優たちの味わい深さも相まり、この兄弟の確執が思いの外良い。妹ミアの影の薄さは気になるが、二人の関係性はこの先も楽しみだ。
そう、巧く綺麗なとは言わないが、粗雑さを含みつつキャラの魅力を最大限まで引き出す。これぞジャスティン・リン最大の強みであり、ワイスピ本来の面白さだったはずだ。キャラたちの個性と関係性、つまりファミリーの絆。これがワイスピの真価だ、とジャスティン・リンは再確認させてくれる。