フリー・ガイ【千文字レビュー】

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『フリー・ガイ』、これが意外と今年のダーク・ホースかもしれない。

ゲームの世界が舞台でライアン・レイノルズがそのNPC(モブキャラ)を演じる。企画を聞いただけで、ある程度おもしろいんだろうとは予想がつく。でも、ありがちな話だし、ヒットはあってもホームランはないだろうとたかを括っていた。

しかし、見た人の口コミは好評が多く、熱量も高い。

 それで急遽、優先順位を入れ替えて見に行ってきた。


なるほど確かにコイツはおもしろい!

それでいて、どこか安心感と懐かしさも感じたのだった。

 

『フリー・ガイ』の良さを表すには「ウェルメイド」というのが合っているかもしれない。この語には「良い」だけでなく「昔ながらの/古典的な」というニュアンスも含まれる。つまり、この映画はオーソドックスによく出来ている上に、その「良い映画」という佇まい自体に懐かしさを覚える。

しかも、その「懐かしさ」の出所はそれほど古くはない。時代で言えば90年代。インターネットが登場し、その可能性が今よりずっと漠然で、開けていた時代だ。

『フリー・ガイ』から漂う香りは、そんな90年代に作られた映画たちによく似ている。

 

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ワイルドスピード JET BREAK【千文字レビュー】

 

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「もうワイスピとトム・クルーズは、あと宇宙に行くくらいしかやること残ってないよなー」

そんな与太話が現実と化した、悪魔的な一本と言えるだろう。

 

ワイスピ シリーズはいつだってバカ・カーアクションの自己ベストを更新し続けてきた。すでに前作の時点で「行くとこまで行ったな」と思っていたのに、「ロケット巻き付け車」という限界突破の代物を見て「来るとこまで来てしまった…」とさらなる畏怖の念すら覚える。

 

とはいえ、そんな「無邪気なバカ」を更新し続けという売りが、作り手たちに諸刃の剣として迫ってきた印象もある。ワイスピ脳の持ち主である作り手たちも、流石に自分たちの限界に気づきだしている。もはやワイスピ的アイデアは背伸びしてやっと届く低脳領域にいる。この先はいかに脳細胞を殺してバカを思いつくか、その勝負になってくるだろう。

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ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結【千文字レビュー】

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かれこれ5年ほど前。Queenの『Bohemian Rhapsody』に乗せて、一目で一発K.O.なハーレイ・クインが暴れ回る。そんな予告を見て、楽しみに『スーサイド・スクワッド』待っていた。そう、あの惨劇からもう5年…。

 

色んな紆余曲折を経て、スーサイド・スクワッド2は現行で最も適任な映画監督ジェームズ・ガンの元へと渡ってきた。そもそも『スーサイド・スクワッド』自体、DCがマーベルの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』に張り合うために作った作品でもあるわけで、その仮想敵本人がそれを作るという歪つな状況ではある。

 

だが、そんな大人の事情はどうだっていい!

トロマが産んだ天才ジェームズ・ガンによる新生スーサイド・スクワッドはチャーミングで、悪辣で、笑って泣けて、血飛沫もいっぱい怪獣もありの大サービス!

そしてなにより5年前に期待していた「こんなんだったらいいな」に180%応え、それでもお釣りが山ほどくる。ジェームズ・ガン作品の中でも会心の一本だと断言してしまおう!

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ミークス・カットオフ ケリー・ライカート特集【千文字レビュー】

 

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『ミークス・カットオフ』はケリー・ライカートには珍しく非=現代劇。それも西部劇だ。

西部を目指してやってきた入植者の一行。三組の夫婦・家族が馬車を引きながら茫漠たる荒野を渡り歩いていく。案内人を務めるミークという男は明らかに怪しい。彼が2週間で着くと言っていた道のりは今や数週間へと延び、依然として着く気配もない。「コイツ、道に迷ってるんじゃないか?」そういった疑念が一行の頭によぎっている。

 

「ケリー・ライカートが描く西部劇」と聞き、『リバー・オブ・グラス』でしたような「男性的とされてきた映画ジャンル(例えば犯罪映画、西部劇)」を女性的視点で解体する作品なのかと思いきや、良い意味でいつものフォームを崩さないケリー・ライカートらしい映画になっていた。

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リバー・オブ・グラス ケリー・ライカート特集【千文字レビュー】

 

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ケリー・ライカートの映画の登場人物は、いつだって「ジリ貧」だ。

その特徴は自主制作した長編デビュー作『リバー・オブ・グラス』の時点からすでに見てとれる。

 

結婚して子供も三人いる専業主婦のコージーは、退屈な現実からの「映画みたいな」逃避行を心待ちにしていた。そんな折、なんでか銃を持ったそれっぽい男 リーと知り合い(この銃を落としたのは刑事であるコージーの親父)、忍び込んだプール付き邸宅で人を射殺(と、思い込んで)、あれよあれよと待ち望んだ逃避行へともつれこむ。

 

フォーマットとしては「犯罪映画」に則っているが、その顛末はどれも間抜けでガッカリな裏打ち的リズムが続く。「劇的」になりそうな状況も現実には「劇的」になってくれず、ウッカリ放った弾はウッカリ当たってはくれないし、出会った男が人生を掛けるような魅力的なアウトローでもなければ、自分がファム・ファタールってわけでもない。挙句の果てには高速の料金を払えず、料金所でUターンさせられる始末。
イカートはその土俵に立った上で、アンチ・ジャンル映画とアンチ・クライマックスを実行した。それはいつだって男たちのものだった「犯罪映画」を女性視点から解体する行為でもあり、後のライカート作品に通じる「誇張なしの現実認識」をハリウッド・セオリーに適応させた結果でもある。

 

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フィアー・ストリート Part 2: 1978【千文字レビュー】

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Netfixが送る、三週連続配信されたホラー三部作『フィアー・ストリート』

2作目に当たる『1978』は前作から16年遡り、「ナイトウィング」というキャンプ場で起きた大量殺人事件が描かれる。前作は90年代らしい節操のないホラー映画だったが、今回は舞台が70年代後半ということでオーソドックスなスラッシャー・ホラーだ。

 

サマーキャンプ真っ最中でたくさんの子供が集まったキャンプ場。だが、その地を代々苦しめてきたサラ・フィアーという魔女の呪いが好青年だったバイトの兄ちゃんを殺人鬼に変えてしまう。サニーサイド、シェイディサイドの地を蝕むサラ・フィアーの呪いと対峙しつつ、前作『1994』で歴代レジェンド殺人鬼として登場した「絹袋被り斧男」のオリジン・ストーリーでもある。「斧男」だけでなく、前作で印象的だったシリアルキラー女子高生の近親者が登場したり、保安官の家系が代々その地で権勢を誇ってきた歴史がわかったり、ドラマシリーズに近い人物相関図の広がりも見え始めた。そこは間違いなくこのシリーズ独自の強みだろう。

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竜とそばかすの姫【千文字レビュー】

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サイバースペース上の仮想現実、ジブリ系譜のファンタジー、日本の牧歌的田舎風景を混ぜ合わせる。これまでの細田守作品で描かれてきた要素を全て詰め合わせた集大成、あるいは幕の内弁当。それが『竜とそばかすの姫』だ。実験的内容だった『未来のミライ』の次作ということで「次はホームランを打つ」という意思が透けて見える。

 

その目論見通り、幕の内弁当要素に加えて、露骨な『美女と野獣』オマージュの歌劇仕立てになっており、いかにも「売れそう」な作品へと仕上がっている。

もちろん作品としての質も高い。中でも演出という点においては突出している。「アニメーションであること」と紐付いた演出こそ細田守最大の強みだ。例えば現実と仮想現実を二次元アニメと3DCGアニメの描き分け、その二つの世界を統合するところまで見せる。しかもその統合は物語とも呼応する。のだ。アニメーターとしてのスタンスと演出的要件が高水準で一致する。だからこそクライマックスにかけては文句なしに素晴らしく、アニメ演出家としての細田守がいかに剛腕か堪能できる。

それと、個人的には高校生の日常的な会話にこそ細田守の真髄がある気がする。今作も高校生たちの日常描写からこそ魅力が溢れている。

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